容れ物と中身と偏見と。「きりこについて」(西加奈子)を読んで。

 

西加奈子さんの「きりこについて」を読みました。
ちなみにこれが西さん初体験です。

 

がっつりとしたネタバレは避けて感想文を書きたいと思っていますが、多少なりとも内容に触れていますので、少しでもネタバレが嫌な人はお戻りくださいね。

あらすじ

物語はきりこについての描写から始まります。

それは丹念に丁寧に、きりこがどれだけ奇跡的なぶすか描写されるのです。

それも赤ちゃんの頃からみんなを絶句させるくらいの、だったようです。

 

救いなのは両親がそんなきりこを心の底からかわいいと思って、愛してきたこと。

本人に対してもかわいいかわいいと溺愛です。

そんな環境でしたのできりこは自分のことをかわいいと思いこんで、なかなかのお姫様気質で育っていきます。

 

幼稚園・小学校低学年のきりこが結構ジャイアンで。

自分ができないことは人にやらせる。

容姿だけでなく、指先も不器用なきりこだから、自分じゃ作れないシロツメクサの花冠もなんだかよくわからないリーダー気質を発揮して一番最初に自分のために、人に作らせる。

 

高鬼という高いところに登っていれば鬼にならない、という鬼ごっこでも、やっぱり謎のリーダー気質で彼女が鬼を指名できて、決して自分は鬼にならない仕組み。

 

なんで子供たちはすんなり従うの? という素朴な疑問に対して、作中の語り手が「人間の子供は十一歳くらいまで大人が酒に酔っているような状態」らしい、酔っているから気が付かないと言っているのが面白かった。

だから子供は「うんこ」とかそういう言葉で永遠に笑っていられるのだと。

 

そんなわけでぶすなのに勘違いしてお姫様気取りのジャイアンきりこに、読みながらイライラしていました。

 

きりこは団地に住んでいて隣人たちの描写もあるのですが、この奥さんはその後新興宗教にはまっていくとか、この男の子は成長すると女の子に暴力を振るうようになるとか、この女の子は後にAVにでるようになるとか。

なんだこのBAD ENDっぽい感じは! となり、幼いきりこへのイライラも相まって本を閉じそうになりましたよー!(ハッピーエンド至上主義。残酷な描写やつらい話は基本苦手)

 

そんな風に読んでいるこちらはイライラしつつも、きりこは周りを妙に従えていて、すくすくと育っていくのですが、子供の『酔い』がさめる十一歳の頃、とうとう転機が訪れるのです……。

 

大人になってよかったと思うこと

 

きりこの子供時代の描写にある彼女を怒らせてはいけない、という子供たちのぴりっとした空気感が、自分が小学校・中学校の頃にあったグループ縛りとか、スクールカーストとかあの小さなコミュニティー内にごちゃごちゃあった息苦しさを思い出させました。

 

息苦しくても毎日通わないといけない。

しかも一日のほとんどをそこで過ごさないといけない。

世界はそこしかなくて。子供って大変ですよね。

大好きな家族と、働く必要もなく家にいられて、がっつり夏休みがある点では子供の頃よかったって思うけど、暴れる男の子とか、いじめとか、ねちねちした関係とかが渦巻きつつも逃げ場所がないあの小さなコミュニティーに戻るのはもう嫌だなって思います。

 

その点大人っていいよね。

大人も面倒くさい人たくさんいるし仕事のために時には我慢する必要もあるけど、今の私はここの外にも世界があるのを知っているし、自分で出ていくこともできるからだいぶ生きやすい。

 

偏見の枠から抜け出せなくても

ともあれ、最初こそ(う……イライラするしもう読むのやめたい)となっていましたが、あっという間に引き込まれて、こうして感想を書き連ねたいほどに心に残りました。

優しいお話だった。

うん、最後まで読んでそう思いました。優しくて暖かかった。

 

そして、それと同時に自分の中にある偏見もあぶりだされて、そういう意味では厳しいお話だった。

ただの『事実』に対して勝手に悪いイメージをもって、でも反対側から説明されれば何だいい人じゃんと手のひらを返すように思って。

事実は同じなのに、その景色をどこからどう見るかで色が全く違う。

 

きりこの幼少期の描写も、きりこがかわいい子だったら、私はあんなにイライラしなかったかもしれない。ぶすのうえにわがままなんて! という思いがなかったとは、思えない。

 

あぶりだされた偏見を、なくすことはきっと難しいと思う。

正直私はできる気がしない。かわいい子好きだしなぁ。

でも『ある』ことに気が付いたから、自分にはそんなのないって思いこんでいるよりずっとましだと思う。完璧じゃなくてもたぶん。

 

偏見を持つ人も持たれた人も、どちらかが全部正しいどちらかが全部悪いじゃなく、お互いに不完全で、お互いにもう少し歩み寄ってもよかったかな、という着地になっていたのが暖かかった。

 

最後に本文中の好きな文章を。

(ほんとは最後のきりこの場面を書きたかったけど、最初から読んできてあの場面につながる爽やかさをぜひ味わっていただきたいので。最後にはきりこ大好きになってた)

 

彼女は自然だった。そして、幸せそうだった。自分が自分でいることがたまらなく嬉しい、という風に、短いスカートを揺らして、歩いていた。 P173

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA